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2023.07.28 トップ

Match Preview & Column #14

Special Column

『東京ヴェルディというチームの土壌』

この夏に加わった新戦力が躍動している。

 

鹿島から育成型期限付き移籍で加入した染野唯月、そしてC大阪から期限付き移籍で加わった中原輝はゴール前でのクオリティーの高さを示した。齋藤功佑、北島祐二、林尚輝、そして宮原和也といった、J1チームから今季加わっている選手たちも主軸としてプレー。そして彼らは、東京Vというクラブの魅力に感じるところも多いようで、普段着やスニーカー、それにピッチで身につけるものにも緑の色が増えている印象だ。

 

一方で、チームを去る者がいる。

 

加藤弘堅はAC長野パルセイロへ。21シーズンに加入し、その高い戦術眼と右足のキック精度などで若いチームの導き手ともなった。戦況や相手の状況を瞬時に判断し、スキを突くプレーに長けた。取材陣も含蓄のある彼の言葉によく耳を傾けたものだ。安在和樹(現・沖縄SV)の無回転キックを自らのものにし、価値の大きいミドルシュートを決めたことが鮮烈に思い出される。

 

杉本竜士はザツパクサツ群馬へ。5シーズンぶりに帰還した21年夏から約2年、緑の血が流れているというのは彼のためにあるのではとすら思うほどにチーム愛にあふれ、背中で皆を引っ張った。彼を慕って公私ともに深い関係となった長沢祐弥は、「一度も愚痴を聞いたことがない。生きてきて初めて、この人に付いていきたいと思った」と話してくれたことがある。

 

橋本陸斗はY.S.C.C.横浜へ。21年2月、まだ15歳のうちにトップチームデビューを果たし、アグレッシブにしかけるドリブルが光った。ピッチを離れれば、“末っ子タイプ”を地で行く存在。年上の選手の懐にどんどん入り込んで、自らの力に変えようとトライした。この約2年半は負傷と向き合うことも多かったが、トレーニングの成果だろう。体は一回りも二回りも大きくなったように見えた。

 

チームを離れた彼らは、「このクラブをこんなに好きになるとは思わなかったな」(加藤弘堅)と言葉を残し、杉本が「頑張れ」「頼むぞ」と短くも強い言葉を掛けて去ったように思いを託した。橋本が伝えたように「覚悟を決めて」次にプレーする場に向かった。

 

齋藤功佑は話していた。

 

「ヴェルディにいるベテラン選手はチームのことをすごく考えていて、サッカーに対して真面目に向き合っている。若手はのびのびやらせてもらっているが、そこに傲慢な感じもなく、自分をどう生かすかを考えてやっている選手が多い」

 

こうした土壌があるからこそ、新たに加わる選手も“緑”に早く染まっていくのだろう。すぐに活躍できるのだろう。

 

このクラブの長い歴史は確かに積み重なり、長い道となって伝播していく。託された選手たちの思いは、悲願であり戻るべき場所に向けた強い力になる。

 

(文 田中直希・エルゴラッソ東京V担当/写真 近藤篤)

Match Preview

『9度目の正直へ向けて最高の準備を』

24V・ファーレン長崎戦から2分1敗と3試合未勝利が続いた東京ヴェルディだったが、前節ベガルタ仙台戦では4得点をあげて見事に勝利。FC町田ゼルビアはじめ、ジュビロ磐田、大分トリニータ、清水エスパルスなど、J1昇格を争う上位陣が敗戦、もしくはドローと勝ちあぐねる中でがっちりと勝点3を積み上げられたことは非常に大きかった。

結果だけではない。内容的にも収穫が多かった。最も衝撃的だったのが中原輝の躍動だ。

721日、つまり試合の2日前にC大阪からの期限付き移籍が公式発表されたにもかかわらず、先発出場を勝ち取り、前半6分に齋藤功佑のシュートのこぼれ球を押し込み先制ゴール。その後、オウンゴール、北島祐二、加藤蓮と続いた3ゴールの全てを演出する活躍で早々に能力の高さを証明して見せた。

「戦術理解のところは自信を持ちつつも、J1でやってきた中で、力強さだったり、もっとゴールにかかわる回数は必要だと感じていました。ヴェルディに来て、最初の試合でその部分が出せてよかった。サイドアタックにストロングを持っているヴェルディだからこそ、自分の持っている攻撃アイデアをたくさん生かさると思ったからこそこのチームに来ることを選びました」と中原。

阪野豊史、齋藤功佑、北島祐二、山田剛綺はじめ染野唯月、甲田英將ら新加入選手たちとの今後の攻撃陣の連係の深まりは楽しみしかない。

一方で、ここまで失点数2位というリーグ屈指の堅守を最大のストロングとしてきたが、仙台戦では今季初の3失点を喫した。平智広、深澤大輝は「崩されたというよりも、自分たちのミスから失点してしまったことが原因」と、あらためて細部の確認の必要性を口にした。練習でもクロス対応が重点的に行われ、決して自らほころびを出さないよう意識を高めた。

ただ、GKマテウスは3失点も決して悲観していない。

「これまでは、守備が良くない時は勝てないことが多かった。それが、仙台戦は守備にミスが出てもそれを上回る4得点をあげて勝利できたことは、チームにとってすごく大きいと思う」。

勝点が拮抗している中での戦いが続く中、優勝、自動昇格争いから脱落しないためには、どんな形でも勝点3を積み上げていくことが重要となる。そのためにも、失点数を上回る得点力がついてきたことは、ポジティブに受け止めて前に進んでいきたい。

今節の対戦相手は水戸ホーリーホックである。相手は現在17位に沈んでいるが、城福浩監督は、「前半戦の戦いを振り返ってみた中で、全チームの中で一番伸びていると感じます。内容的にもどこのチームにも引けをとっていませんし、中盤もしっかり作れる。前線のゴールに向かう姿勢もすごく迫力も増して、全員がハードワークして一体感もあって、明らかに前回対戦の時よりも、2ランクぐらい上がっている印象がある」と、リスペクトしきりだ。

だからこそ、あらためて自分たちがやるべき戦い方を徹底すべく、手綱を引き締める。

不思議なことに、第9節で白星以来、ホーム・味の素スタジアムでの勝利から遠ざかっている。だが、その数奇な現実を誰よりも悔しく思い、「勝利を届けたい」と心の底から願っているのは城福監督であり、東京ヴェルディの選手たちであることは言うまでもない。

この試合に向けても、一ミリの手抜きもなく、全員が勝利へ向けて最高の準備を整えるべく努力をしている。その上で、指揮官は呼びかける。

「ファン・サポーターの声は確実に力になります。だからこそ、多ければ多いほど絶対にプラスになります。もっともっと大きな声援をもらえるためにも、次こそ勝ちたいと思います」。

選手、チームが全力を尽くすことはもちろん、さらにファン・サポーターの後押しを力に、9度目の正直だ!

(文 上岡真里江・スポーツライター/写真 東京ヴェルディオフィシャル)

Player's Column

『伸び盛りの山田剛綺が存在感を放てる理由』

2022年関西学生サッカーリーグMVP』という派手な看板を引っ提げ、今季から東京ヴェルディに加入した。

昨年12月に負った左ハムストリング腱膜損傷により開幕には間に合わなかったが、第6節ロアッソ熊本戦(325日)でJリーグデビュー。

「即戦力として獲得している。二桁以上得点を取って欲しい(江尻篤彦強化部長)」との大いなる期待に応えるべく試合を重ねるごとに頭角を表しつつある。

3月某日、怪我が完治し、チームに完全合流して間もない紅白戦の中で、山田はさっそく存在感を示していた。ゴール前での反応の速さ、身長170cmとは思えぬほど高く、滞空時間の長いヘディングシュートなど、ポテンシャルの高さは初見で十分に伝わってきた。

だが、第6節でデビューを飾ったものの、その実力をすぐに発揮することができなかった。山田はあらためて当初を振り返る。

「始動から練習、キャンプとチームを作っていく最初の段階でみんなと一緒にやれなかったので、シーズン中に戻っても、自分のプレーを知らない選手といきなりやるのは、正直難しかったっです。ボールの出どころであったり、どこでもらったらいいのか。自分がどういう選手なのかは、やはり実際にサッカーができないと理解しにくかったり、伝えにくいので。それに、復帰してすぐの時は、なかなか思い通りに体が動かないので、今まで自分ができていたことを要求しても、自分が動けないみたいなこともあったりして。思った以上に苦労しました」。

思い通りのプレーがなかなか出せない。だからこそだったのだろう、試合もベンチ入りはするものの途中からの出場がしばらく続いた。

そんなもどかしい日々が一転したのは第14V・ファーレン長崎戦だった。

5試合ぶりにスタメン起用となると、1-1の状況から決勝点となるプロ初ゴールを決め、チームを勝利に導いた。そして、その試合を境に先発出場が続くようになると、コンディションも周囲との連係もますます上昇。第21節ザスパクサツ群馬戦、第22モンテディオ山形戦では2試合連続ゴールを決め、存在感を増している。

「どの選手がどういうことが得意で、自分もこうに動くから、ここに出てくるだろうな、ということがだいぶわかってきました。最近、僕自身が得意としている背後でボールをもらえるようになった要因も、そういう関係性が高まったからだと思います」。

ここまで数字上は3ゴール1アシストだが、それ以上に最も重要な共通理解の部分で大きな手応えを感じている。

そのために大きな手助けをしてもらっているのが、小倉勉ヘッドコーチである。怪我が治り、ピッチに復帰して以降、毎日のように全体練習後の個別練習で指導を受けている。

「小倉コーチとは、主にシュートとクロスの合わせ方の練習をやっています。シュートのところでいうと、ペナルティーエリア内ではなかなか2タッチ、3タッチできないので、1タッチで打つ練習であったり、抜け出した後にどうゴールに結びつけるかということを考えながらシュートを打つ練習だったりが多いですね。サイドからのクロスに対しては、この夏から新加入した選手が多い中で、ヒデ(甲田英將)なども一緒にクロスからの形などをやりましたが、そうした選手の特徴を掴みながら、どういうタイミングでクロスが来るのかとかいうところを、すごく考えながらの練習をやってもらっています」。

その甲斐あってのチームへのフィットの手応え。

「小倉コーチには常に気にかけていただいて、本当にありがたい」と感謝してやまない。

甲田の他にも、染野唯月、中原輝といったなど、J1チームから才能に長けた逸材が続々と加入し、彼らの個性を引き出しつつ、自らの特長もさらに生かしてもらえる関係づくりができるようになっていきたいと、胸を躍らせている。

「特にソメはすごく気の利く選手で上手いですし、高さもあって、パスも出せる、何でもできるタイプ。なので、自分は背後を抜けるのが得意なので、そこで前を向いて見てくれる選手が一人増えたという意味では、自分も生きるのかなと思います。クロスのところでも、ヒデや中原選手はすごく良いボールを蹴ってくれますし、今までは自分がニアに入って、中の選手がいなくて(逆サイドの)深澤大輝くんに流れるみたいなシーンが結構あったのですが、その大輝くんに流れるまでにソメがいるというシーンが作れるのは、チームとしてはとても大きいんじゃないかと思います」。

とはいえ、一方ではレギュラー争いが急激に激しくなったことも確かだ。その中でどのようにして競争を勝ち抜いていくか。山田は、しっかりと現状を受け止め、自分自身と向き合ってプレーしている。

FW、もしくはサイドアタッカーとして得点を求められている立場なので、シュートまでのクオリティやどんな難しいシュートでも枠に持っていく技術は突き詰めていきたいです。アタッカーとして、1試合に1、2本は決定的なチャンスはあると思うので、その1、2本を3、4本に増やすためにはより一層練習しなければならないですし、ビルドアップの部分でも、常には関わらないとしても、ボールはくることはあるので、その際の質、1タッチ、2タッチの質というところにも、練習からさらにこだわり続けられるようにやっています」。

さらに、『前線からボールを奪いに行き、ハイラインを保って相手陣でサッカーをする時間を増やす』という、今季城福浩監督が掲げるサッカーにおいて、FWの守備はある意味となる。その点においても、山田は己の活路を見出す。

「僕は守備は嫌いではないんです。というのは、関西学院大学の時も守備をしなければ試合に出られないチームでしたから。攻撃だけできる選手というのは大学にもたくさんいて、そういう選手はJ1クラブに行きました。その中で、自分が試合に出るためには?チームに必要となる選手になるためには?と考えた時に、守備ができることが自分の良さだと自己分析しました。とにかく試合に出なければ評価されないので、絶対に守備は磨かないといけないなと思ってやっていたんです」。

今季の東京ヴェルディのスタイルを発揮するためには前線選手の守備は必須だ。背番号『27』のパワフルかつ献身的な守備は、今後もチームの大きな鍵を握ることになるだろう。

加えて、今後ぜひとも注目して欲しい点に、ヘディングの強さがある。GKマテウスも、「あの首の太さ、ヘディングシュートの威力はチームNo.1だ」と大絶賛している。ただ、本人は自信を持ちつつも、「ヘディングに対しては特別な練習をしたことは一度もないし、何でできるようになったのかもわからない」と、テヘヘと笑う。身長は高くはないが、跳躍力は抜群。まだ頭でのゴールは見られていないが、武器としてこれからのヘディングゴールにも大いに期待したい。

17節レノファ山口戦。印象的なシーンがあった。前半17分、森田晃樹が入れたグラウンダーのクロスに山田がニアで潰れたことでボールはファーに流れ、そこに詰めた深澤がきっちりと流し込んだ。チームとしての貴重な追加点に陰ながら貢献したことは喜びつつも、反面、自身のゴールチャンスだったにもかかわらず触れなかった逸機に、思わず地面を叩いて悔しがった。自らに求められるタスクが得点である以上、点を取れなかったことを悔しがるこの感情の表れはなんとも頼もしい限り。ただ、本人はあくまで冷静だ。

「もちろん自分が点を取りたいという気持ちもあるのですが、誰かを開ける動きだったり、囮になる動きというのは、大学でもすごく意識してやってきました。そういうところを惜しみなくできるのが自分の良さでもあると思うので、点を取りたい気持ちも持ちつつ、チームのためにニアで潰れて、自分が点を取れなくても仲間が点をとってくれることでチームの流れをつくることを最優先でやり続けたい」。

そんな強気で負けず嫌いな京都出身の22歳。初の東京生活は「人が多い」と目を回したそうだが、新宿の人混みにも最近は徐々に慣れてきたそうだ。普段のサッカー環境も「チームメイトがすごくいいメンバーばかりで、特に同い年が多くて居心地がいいです」と充実の表情を見せる。中でも相棒とも言えるほど常に行動をともしているのがGK飯田雅浩だ。「常にポジティブで明るいので、元気をもらえるんです。なんか、みんなの前では厳しいことを言ったりするのですが、2人の時はめっちゃ優しい。うまくいかない時も『大丈夫だよ』と言ってくれたりして、本当に助けられています」と、慕う理由を明かす。

まだまだ伸び盛り。目標の「二桁得点」へ向け、成長あるのみだ。

(文 上岡真里江・スポーツライター/写真 近藤 篤)