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2023.11.25 トップ

Match Preview & Column #22

Match Preview

『1年間積み上げてきたものを信じ、自信を持って戦うのみ』


4位で迎えた2023Jリーグ最終節・大宮アルディージャ戦、前半苦しみながらも0−2で勝利し、東京ヴェルディは自分たちのやれること、やるべきことはすべて尽くした上で、他会場の結果を待った。その結果、ジュビロ磐田と同勝ち点ながら得失点差で及ばず3位で今季を終了。『自動昇格』という最大の念願は叶わなかった。

それでも、城福浩監督は悲観することなく「自分たちがしっかりと信じて積み上げてきたものがあって、その結果がレギュラーシーズンの結果だと自負しています」と真摯に受け止める。

宮原和也も、「自動昇格はもちろん目指していましたし、その中でロスタイムで点をとって勝ち点を拾ってきた試合もありましたし、みんなそれぞれ一生懸命やってきました。そういう意味では、自分たちで3位を勝ち取ったと思っています。やはり、3位と6位ではアドバンテージが全然違うので」と、リーグ戦の最終順位という意味では胸を張った。

ただ、一方で、『引き分けでも勝ち抜け』という最大のアドバンテージをポジティブには捉えつつも、監督はじめ選手全員、誰一人として「引き分けOK」などと考えている者はいない。

「引き分けでもいいとはいえ、引いたりするのは絶対に良くない。そこを考えすぎて守備的に行くとやられるので、普段やっている通りに勝ちに行くことが大事」との宮原の言葉こそ、まさにチーム全員の総意だ。そして、「ここまでやってきた自分たちの戦い方をいかに出せるか」。それこそが、J1昇格のための全ての鍵を握ると言えよう。

準決勝の相手はジェフユナイテッド千葉となった。1022日第39節、0−2のビハインドから3点を奪い、大逆転勝利を収めたことはまだ記憶に新しい。だが、その試合アディショナルタイムで決勝ゴールを挙げた中原輝は「前回はああいう勝ち方はしましたが、千葉は力のあるチーム。次もあんなふうに2失点してしまうと、正直きついゲームになると思う」と表情は厳しい。

その上で、「最終戦の大宮戦もそうでしたし、その前の栃木SC戦もそうでしたが、今の僕たちはゲームの入りが課題。もっと前半始まった直後から自分たちのサッカーをやれるようにすることが大事だと思います」と中原。千葉は勝たなければならず、得点が必要なだけに、序盤から勢いをもって攻めてくることが十分予想できる。その勢いにのみこまれないことの重要性を強調した。

また、齋藤功佑も立ち上がりをポイントに挙げる。「前回対戦は、相手が最後までプレッシャーをかけにきてくれたからうまく逆転できましたが、今回は1点がすごく大きな鍵になる。仮に先に先制を許したら、そのまま引きこもる可能性も十分あると思うので、とにかく先に失点しないこと。特に立ち上がりはすごく重要になる」。試合開始のホイッスル直後から緊迫した試合になることは必至だろう。

前回対戦の時には欠場した日高大、田中和樹が加わり、千葉はさらに攻撃に厚みが増すであろうことを城福監督も十分警戒する。それでも、「戦術が変わるわけではないと思うので、誰が出ても、その一人一人の特徴をしっかりと把握してやれれば問題はない」と宮原。東京Vはリーグ戦42試合中23試合が無失点という圧倒的な守備力を誇っている。その意味でも、自分たちの戦い方さえできれば、自ずと3位のアドバンテージを最大の味方に、優勢にゲームを進めていけることだろう。あくまで、自分たちが一年間積み上げてきたもの信じ、自信を持って戦うのみだ。

普段はあまり表立って熱い言葉で感情を表現するタイプではない森田晃樹キャプテンが、公式記者会見の場で口にした。

「選手と一緒に、今までで一番、熱く応援してほしいです」。

森田らしく、淡々と、とても短い一言だったが、この言葉でヴェルディのファン・サポーターはスイッチを一気に入れられたに違いない。

東京Vアカデミー出身の綱島悠斗は目を輝かせて話した。

「自分たちの結果次第では、ヴェルディファミリー全員を笑顔にすることができると思うと、『絶対に勝ちたい』という気持ちがすごく強いです」

長い歴史を築いてきたOBたちも含め、すべてのヴェルディを想う人々の想いと共に、あと2試合。さぁ、歴史を変えよう!

(文・上岡真里江 スポーツライター/写真・近藤 篤)

Player's Column

『練習に裏打ちされた自信、心の余裕。今、マテウスが大切にしたいもの』

東京ヴェルディの一員になって4年、マテウス・ヴィドットは今年、最高のシーズンを過ごしている。選手の中で唯一、全試合フル出場を果たし、チームもリーグ最少失点数を誇った。そしてこれから、最大の目標である『J1昇格』をかけたプレーオフに挑むのである。

「間違いなく、在籍した4年間の中で一番いいシーズンになっています」と話すその表情は、充実感に満ち溢れている。

実は、マテウス自身、今年はシーズン前からある程度のチームへの期待を感じていたという。ただ、実際はその期待をはるかに上回る結果が待っていた。

「チームとして、シーズン通して42試合常に上位にい続けたことが、とても素晴らしかった。他の上位に食い込んでいるチームを見ても、シーズン途中で下に落ちてしまって、また途中から上がってくるなどの変動がある中で、ヴェルディはほとんど4位以下に落ちていない。決して簡単なことではないです」

その要因を、守護神は「日々のトレーニング」だと確信する。また、開幕前に感じたというチームへの期待の理由も、そこにあった。

「昨年、城福監督が就任してから、しっかりとトレーニングができていることがすごく大きいと思います。選手全員がやるべきことがはっきりしてるので、長いシーズンの中で、怪我人が多く出たり、チームの流れが良かったりということがある中で、どの選手が出てもやるべきことがはっきりしているというところが、シーズン通して上位にい続けられた要因だと思います」。

シーズン中も、マテウスは「日本一のトレーニングをしたい」と目指す城福監督の練習へのこだわりを常々口にしてきた。選手全員が、100%の力で挑む毎日の練習の積み重ねこそが、安定した戦いを生み、選手たちに自信をもたらし、最終的に3位という結果につながったのだ。

リーグ最終節から試合のない一週間を挟んだが、この二週間のチーム状況について、マテウスは次のように話す。

「全選手がこの瞬間のために一年間かけて練習してきたなということが感じられる二週間の練習でした。とにかく、チーム全体がすごく自信に満ち溢れている状況だと思います」

得失点の差で惜しくも『自動昇格』には手が届かなかったが、誰一人として下を向いている選手はいない。もちろんマテウスも同じだ。もっといえば、非常にポジティブに捉えているぐらいだ。

「たしかに、印象だけ見ると、本当にあと一歩のところで自動昇格を逃したと捉えられがちですし、もしかしたらファン・サポーターや、選手の中にも、そう感じる人もいるかもしれません。でも、自分はそれとは逆の考え方なんです。最終節大宮アルディージャ戦、4位の状態で入った中で、結果として3位に終われた。3位と4位の差というのはものすごく大きいですし、プレーオフに関しては、2試合ともホームでできる。しかも引き分けが自分たち側につく。これほど有利にゲームを進められるアドバンテージはないと思うので、そう考えれば、3位を勝ち取れたことはすごいポジティブな結果だと思っています」

リーグ戦の42試合中、半分以上の23試合が無失点という成績からみても、「引き分け=勝利」となるアドバンテージは東京Vにとってかなり大きい。とはいえ、ブラジル人GKは、だからこそ、あえて兜の緒を締める。

「もちろんアドバンテージはみんなわかってると思います。でも、それを考えすぎて試合に入ることは本当に危ない。いつも通りしっかりまず1点取る。そうすれば、より一層自分たちが次に進める可能性が高まるという考え方を持っていかなければいけない。ジェフ千葉は強く、難しい相手。1つのミスで1点失点してしまうと、そこで終わってしまうので、とにかく『引き分けでいい』という考えは捨てなければいけません」

こうした謙虚さと隙のないリスクヘッジこそが、毎試合のようにチームを救うスーパーセービングの礎であるに違いない。

自身キャリア初のリーグ全試合フル出場も、オフ期間からそれを目標にして行ったかつてないほどのフィジカルトレーニングや休息の取り方、過ごし方が身を結んでの成果だった。達成した瞬間は、もちろん「嬉しかった」という。だが、それ以上に「あと2試合、本当に大事な試合が残っている」という思いのほうが断然強く、リーグが終わっても決してリラックスはできていない。つまり、プレーオフにも緊張の糸が途切れることなく臨めるということだ。

4年の在籍、最高のシーズンを過ごしている今、より一層ヴェルディへの想いが強まっているからこそ、マテウスはこれまで感じてきた胸の内を隠さず吐露した。

「ブラジルにいる時から『ヴェルディ』の名前は知ってましたし、いろんなブラジル人選手がプレーしたことも知っていました。その中で、日本に来て一年目、正直、衝撃的だったのが、10年以上もJ2にいるということや、毎試合、ホームゲームで20003000人ぐらいしか観客が入らないという、自分が聞いていたヴェルディとは全く違う状況だったこと。しかも、全体的にそれに少し慣れてしまっているような、緩さのようなものも感じました。

 でも、今年はそれが全く変わってきた印象があります。ヴェルディを、みんなで何とか変えて、元の位置(J1)に戻そうという努力がすごく垣間見えたからこそ、今の状況があるのだと心から思います。このヴェルディが、以前のようにJ1にいて、ブラジルでいうコリンチャンスやパルメイラスなどのビッグクラブのような位置に戻ってくれるように、僕も心から願っています。そのためには、この2試合の結果が本当に本当に大事になってくると思っています」

また、ファン・サポーターの存在についての想いも明かした。

「サッカーチームの中でファン・サポーターの存在は一番大事だと言っても過言ではありません。その中で、ヴェルディでの1年目、2年目は20003000人ぐらいしか入らないスタジアムでプレーしていて、少し悲しく残念な気持ちにもなりました。同様に、ファン・サポーターの方々も、チームがなかなか結果が出ないシーズンがあったり、プレーオフにすらも行けない、昇格争いなんてもってのほかだという順位を2〜3年くり返した中で、今年は大きく変わったと感じていると思います。間違いなくファン・サポーターの人数も増えましたし、僕のSNSに個人的にメッセージを送ってくれたりする数も増えています。そうしたファン・サポーターの存在が、僕自身も本当に力になっています。だからこそ今年だけではなく、今年から来年、再来年と、どんどんこの状況を、もっともっとたくさんのファン・サポーターの人たちと共有できるようにやっていかなければいけないなと、強く感じています」

2008年以来、この15年で最もJ1に近付いている現状の重みを、サッカー王国ブラジル出身だからこそ、マテウスには痛いほど理解できる。

「ヴェルディに関わるすべての人が待ち望んでいる瞬間だと思います。全員がしっかりとこの状況を楽しんでプレーできれば、駒を次に進められると思うので、まずは千葉戦だけにしっかりと集中したいと思います。ファン・サポーターのみなさんも、この瞬間を何よりも楽しむことが大事。心から楽しみましょう!」

「楽しむ」ためには、どれほどの練習と、それに裏付けされた自信、心の余裕が必要か。ヴェルディの選手たちも、ファン・サポーターも、それが備わっているからこそ、「楽しもう」とマテウスは呼びかけるのだ。

まだ何も成し遂げてはいない。本当の意味で「最高のシーズン」にするのは、ここからだ。

(文・上岡真里江 スポーツライター/写真・近藤 篤)