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SDGs²スタジアム2021キックオフトークセッション『スポーツを通じて実現するノーマライゼーション社会』

SDGs²スタジアム2021キックオフトークセッション

 

■開催概要

2021年4月20日(火)16:30-18:30

ヴァーチャルスタジアム JFAハウス

 

モデレーター:平原依文

 

■スポーツを通じて実現するノーマライゼーション社会

【ご登壇者】※当日の着席順

スポーツ庁 障害者スポーツ振興室長 助川隆 様

ヤンセンファーマ株式会社 広報リード 岸和田直美 様

日本障がい者サッカー連盟 会長 北澤豪 様

Jリーグ 社会連携室長 鈴木順 様

パラトライアスロン選手/ひまわり福祉会/Challenge Active Foundation 木村潤平 様(オンライン参加)

東京ヴェルディ 普及部コーチ/SDGsヴェルレンジャー隊長 中村一昭

 

平原依文さん

続いてのセッションに入る前に、昨年に東京ヴェルディとヤンセンファーマさんが実施した『ともに未来へ Green Heart Project』で、私が本当に感動したエピソードを紹介させてください。

 

このプロジェクトには、こころの病と向き合う方、ご家族の方、普段当事者の皆さんをサポートしている就労支援事業所の方が、一緒に参加してくださいました。東京ヴェルディホームゲーム会場の味の素スタジアムで、スポーツ教室をして、キッズパークというイベントスペースで就労体験をして、最後にみんなで盛り上がって試合観戦をするというイベントです。

ある男の子の参加者に『今日はどうだった?』と聞いたら、こんな答えが返ってきました。『いつも応援しているヴェルディの選手のために働けて、本当にいい1日だった。選手のために汗を流せて、本当にうれしかった』。彼と一緒に来場されていたお母様にもお話を聞いてみたのですが、『あんなに楽しそうに笑っている息子を見たのは初めてです!また参加したいし、こういうコミュニティをもっともっと大切にしていきたい』とおっしゃっていて、まさにGREENの輪がどんどん広がっていったGreen Heart Projectだったと感じました。

 

さて、ここからふたつめのトークセッション『スポーツを通じて実現するノーマライゼーション社会』を始めたいと思います。

まずは木村選手、本日はお忙しいところオンラインでご参加いただいてありがとうございます。今は遠征先ということですが、どのように過ごされているのですか。

 

木村潤平さん(パラトライアスロン選手/ひまわり福祉会/Challenge Active Foundation)

今週末に広島の廿日市市でアジア選手権があるので、今日から現地に来ていて、試合前の最後の調整を行っています。感染拡大が起きているなかでの大会参加なので、ホテルでの待機が多いですね。これから3日間ほど、ホテル内での生活になっていくと思います。

 

平原依文さん

木村選手、ありがとうございます。

岸和田さん、ヤンセンファーマさんのお仕事は医薬品製造という健康に直結するものですが、当事者の方々の回復のために、薬剤を超えてプラスアルファで取り組まれていることがたくさんあると思います。どんなことをされているか、教えていただけますか。

 

岸和田直美さん(ヤンセンファーマ株式会社)

ジョンソン・エンド・ジョンソングループでは、私が所属しているヤンセンファーマが医薬品を製造していますが、それ以外にも医療機器や一般消費者向けの商品も合わせて、グループで数万点の製品を扱っています。世界最大のトータルヘルスケアカンパニーとしていますが、一人でも多くの方の健康に貢献するために、私たちは日々仕事をしています。

 

ヤンセンファーマの観点から申し上げると、革新的な医薬品をお届けすることが事業の中心になるのですが、薬剤だけで患者さんが抱えている日常生活の課題が全て解消するかというと、そうとは限らない現実があります。なので私たちはトータルヘルスケアカンパニーとして、病を癒すことを突き詰めて、患者さんが抱えている課題にともに向き合うという姿勢を大切にしています。私たちはそれを『Beyond Medicine(薬剤を超えて)』という言葉で表現しています。

 

その取り組みのひとつがまさに、東京ヴェルディさんと一緒に進めさせていただいている『ともに未来へ Green Heart Project』です。ヴェルディさんと弊社を結びつけてくれたのが『ノーマライゼーション』という言葉でして、だからこのトークセッションのタイトルにその言葉が入っていることが非常にありがたいなと思っています。

 

今日のトークセッション前のプレゼンテーションにあったように、ヴェルディさんはふたつのSDGsの実現を目指す取り組みをされていて、年齢、性別、障がいの有無に関わらずスポーツを楽しむという活動をされています。私たちとは事業の内容が全く違いますが、実は向いている方向は同じなんです。

 

ヤンセンファーマは創業者であるポール・ヤンセン博士が約60年前に初めて向精神薬を開発したという背景があり、精神疾患に向き合う歴史を非常に長く持っています。今は精神疾患だけではなく、他に5つの病気に対する医薬品も提供しているのですが、こころの病のお話をすると、薬をお届けするだけではなくて、当事者が少しでも暮らしやすい社会にしていくにはどんなことができるだろうということを、常に考えています。それはこころの病と向き合う人の社会参画を後押ししたり、日常生活のなかの次の一歩を支えたり、それによって当事者の方が少しでも活躍できる社会を目指すことで、それを私たちは『ノーマライゼーション』と呼んでいます。

ヴェルディさんが掲げているノーマライゼーションと、私たちが掲げているノーマライゼーションはお互いに共感する部分があり、昨年からパートナーシップ契約を締結させていただきました。

 

2020シーズンは3回のホームゲームで『ともに未来へ Green Heart Project』を実施して、延べ100名を超える当事者とご家族の方が参加してくださいました。なかには3回連続で参加してくださる方もいらっしゃいました。

プログラムには私も参加したのですが、普段は足を踏み入れることのないスタジアムのピッチレベルに入ると、広くてきれいなグリーンの芝生があって、それだけですごくテンションが上がるんですね。当事者の方々の表情を見ていると、最初は慣れない環境や知らない人たちに対してぎこちない雰囲気があるのですが、イケメンコーチたちが少しずつこころの距離を縮めていって、最後はみんなですごく一体感のある雰囲気になりました。

 

それを体験してみて、いち参加者として感じたことがあります。現場には当事者の方、ご家族の方、付き添いの方、ヴェルディの皆さん、それから弊社からもボランティアを募って社員が参加していたので、それなりの人数が集まっていたのですが、どなたがこころの病のある方で、どなたがそうじゃないのか、本当に分からなくなって『あ、これがノーマライゼーションか』と感じました。

それを体感してみて、思い返すと自分も気づかないうちにどこかで境界線を引いていたのではないかと感じました。このノーマライゼーションを感じさせてくれるヴェルディさんの力もすごいですし、スポーツ自体の持つ力のすごさ…、先ほど中村コーチがおっしゃっていた『人と人を近づける魔法のチカラ』というお話は本当にその通りだなと思いました。このような機会をいただけるのは本当にうれしいと思います。

木村選手と助川さんも現地で参加されていたので、ぜひ改めてご感想を教えて欲しいです。

 

平原依文さん

木村選手、どうですか。昨年参加されたと思いますが、ご感想をお聞かせください。

 

木村潤平さん(パラトライアスロン選手/ひまわり福祉会/Challenge Active Foundation)

岸和田さんがおっしゃった通り、最後の方は僕自身も誰が障がいのある方なのか分からなくなって、障がいの有無に関わらず本当に皆さんが楽しまれていることを感じました。そういうイベントってなかなかないんですよね。どうしても障がいのある方は障がいのある方だけでイベントに参加するということが多くて。そうするとお互いを知らないことが隔たりを生んでしまうのですが、そういった意味では今回の『ともに未来へ Green Heart Project』は、相互理解の場なる素敵なイベントでした。このようなイベントがもっと広がっていって欲しいです。当日は知的障がいの方も参加されていましたが、さらに肢体不自由の方や、もっと欲を言えば高齢者の方にも参加してもらいたい。全ての人が一緒に楽しめるイベントに育っていくとすごくいいなと思います。今の時点でも本当にすごいイベントなので、もっとよくなっていくとさらにいいなと感じました。

 

平原依文さん

木村選手、ありがとうございます。オンラインで離れているのに、木村選手の熱が会場全体に伝わってきました!助川さんはどうでしょう。

 

助川隆さん(スポーツ庁)

印象に残っているのは、味の素スタジアムのピッチレベルに立てたことと、そのあとにコンコースに作られていた就労体験の場です。例えば目をつぶってブラインドサッカーの体験をするコーナーがあったのですが、そこでは一緒に体験をしてみることが、知識として知っていることよりも非常に重要なのだと感じました。

 

自分の知っているサッカーというスポーツから、目をつぶることによって視力の部分だけを変えてみると頭では分かっていても、実際にやってみると全然身体が動かない。自分が持っていない何かの力を利用しないとできないんですね。そのことを体験することによって、それができる人に対してすごいなと思う感覚につながりますし、実際すごいと思います。

その経験は困難を抱えている方に対する理解や敬意につながると思います。スポーツを通じた共生社会と言いますが、そこにダイレクトにつながる話だと思います。そういう意味でも大変素晴らしい取り組みで、参加できてよかったと思います。

 

平原依文さん

ありがとうございます。

鈴木順さん、Jリーグもクラブや各企業のこういった活動に着目されていると思うのですが、率直なご意見や、リーグとしての取り組みについてお聞かせいただけますか。

 

鈴木順さん(Jリーグ)

Jリーグでは社会連携室を中心として『Jリーグを使おう!』という言葉を掲げ、Jクラブを使って世の中に対してよいこと、ポジティブなことを一緒にやりませんかというお声がけを、自治体や企業の皆さんにしています。

そういう意味では今回ヤンセンファーマさんが、ヴェルディの持つスタジアムという空間やサッカーの持つわくわく感を使って、参加された方やご家族に楽しさを提供されたのはすごくいいことだと思っています。

 

全国には57のJクラブがあって、地域のために何ができるのかということを考えています。私の立場としては、こういうことをヴェルディさんがやっているよという情報を他のクラブにシェアをすることで、自分たちもできるんじゃないかな、一緒にやってくれる企業さんはいないかなと思ってもらうことが大切です。

もしくは企業さんの方から『Jクラブを使えないかな』という話があったときや、自治体と企業がなかなか結びつかないときにヴェルディさんに話をしてみて、関わっている企業さんと一緒にできないかなとか、そういう風にクラブを使ってもらえたらすごくうれしいなと思っています。

 

岸和田さんのお話でも感じたのですが、企業の皆様もここ5年くらいでガラッと変わってきていて、ピッチに看板を出せばいいやと思っている企業さんはそんなに多くなくなっているのではないかと思います。過去には看板を出すかわりに何かアクティベーションをしてくださいというような、モノ売りからコト売りに変わっていきましたが、それが今もう一歩進んで、共感できないと応援しない、逆に共感したらいくらでも出しますという企業さんも増えてきているので、すごくいい流れかなと思います。

 

障がいのある方に対する合理的配慮、どういうことをしたらいいのか、してはいけないのかということは、一緒にいることで自然に身につくと思うので、それをスポーツというエンターテインメントを通して行えれば、あまりギスギスせずフランクに習得できるんじゃないかなと思います。

 

精神的、身体的に医学的な障がいのある方はいらっしゃいますが、一方で健常者と呼ばれる人たちが社会的な障がいを作っていることもあると思います。その社会的障がいを両方のアプローチで解決していくと、すごくインクルーシブな世界ができると思います。先ほど助川さんがおっしゃったように、障がいの有無に関わらず一緒に何かをするのはすごく大事なことだと思います。

 

平原依文さん

ありがとうございます。

実は悲しいお知らせがあるのですが、木村選手はここでお別れしないといけないんですよね。

 

木村潤平さん(パラトライアスロン/ひまわり福祉会/Challenge Active Foundation)

遠征の都合でこれから団体行動がありまして、すごく残念なんですけどここで退出させていただきます。素晴らしいゲストの皆さんがいらっしゃるので、僕自身もっとお話を聴きたかったのですが…。また次の機会に皆さんとお話をできればと思っています。ありがとうございました!

 

平原依文さん

木村選手、ありがとうございました!

続いては北澤さんに伺います。北澤さんは日本障がい者サッカー連盟の会長を務めていらっしゃいますが、様々な活動の現場で当事者の方とふれあって感じることや、現状の課題などについて教えていただけますか。

 

北澤豪さん(日本障がい者サッカー連盟)

今日いろんなお話を聴いて、僕自身発見がありました。またセッションの間の休憩時間にみんなで距離を縮めていろいろ話せて、インクルージョンの世界を感じています。

 

日本障がい者サッカー連盟(JIFF)は“まぜこぜサッカー”として『JIFFインクルーシブフットボールフェスタ』というイベントを東京で5回開催していて、それが広島と茨城に広がっています。我々は7つの障がい者サッカー団体を統括しているので、このイベントでは全ての障がいの方、子どもたち、健常者で一緒にサッカーをしています。そのために一番やりやすいルールを設定するのですが、やりづらければウォーキングサッカーに切り替えたりします。何を遠慮しなければいけないのかという考えが先行しながらプレーをするより、まずやってみようと。それによって気づくことがあるという話が、キーワードとして今日たくさん出ていると思います。

 

どういうボールを出せば、片方の脚がない選手に対していいパスになるのか、多分普段プレーしているチームではそういうところまで考えることはないと思います。そして一本の脚でも我々以上にすごいフェイントをかけてシュートまで持っていく姿を見ると、『すごい!』としか思わないですよね。『障がいがあってかわいそう』じゃなくて、逆にすごさに変わる。それを同じフィールドのなかで一緒になって体感できるのは何よりの教育だし、ピッチのなかにこれから目指す共生社会が実現していることは、これまでやってきて大きな気づきでした。

 

でもこうして実践していることが、あまりたくさんの人に知られていないという現実はあります。今日お集まりのメディアの方々に発信していただけると、こういった取り組みが広がって世の中が変わっていく。それぞれの役割は違っていても、一緒になって世の中を変えられる今日のトークセッションになっていると思います。

 

またJIFFでは全国を9地域に分けて連携会議を実施しています。それぞれの地域で別々にやっていたことを横軸で連携して、一緒にやることによってもっと違うものが生まれています。ここ2年間、JIFFでそういった情報交換の機会づくりに取り組むことで、大きな変化は作れてきていると思います。

 

あとはスポーツ庁の助川さんが緑のネクタイをしているので、ヴェルディに仕込まれているのかが気になりますね(笑)。

 

中村一昭(東京ヴェルディ普及部/SDGsヴェルレンジャー)

ご用意いただいたんですよね(笑)?たまたまですかね(笑)?

 

平原依文さん

助川さん、どうなのでしょう(笑)。それはさておき、助川さんはスポーツ庁に所属されていて、クラブやリーグという枠を超えて、さらに大きな視点からスポーツを通した健康と福祉についてお考えかと思います。ご意見をお聞かせください。

 

助川隆さん(スポーツ庁)

スポーツ庁で障害者スポーツ振興室長をしている助川と申します。まずひとつめのご質問についてですが…、ネクタイは自分で仕込みました(笑)。

 

私だけ行政の人間で実践の場に立つ者ではないので、抽象的な内容から入ってつまらない話になってしまうのですが…。また今日は、実践されている方々からは大変おもしろいお話を伺ったと思っています。

 

こういう言葉があります。『障がいのない人はスポーツをした方がよいが、障がいのある人はスポーツをしなければならない』。これはハインツ・フライというスイスの車いす陸上競技選手で、世界記録も持っていた人の言葉です。

 

これは障がい者のある方にとってのスポーツというものを、健康の観点からストレートに表した言葉で、スポーツはリハビリテーションや、健康体力の維持増進や、精神的には生きがいになったり自信がついたり、そういうことにもつながっていく意義があるものです。

 

ただ私どもの広報がなかなかうまくいっていないこともあり、スポーツをすることの意義は大きいものの、なかなか実施率が上がってこないという状況があります。

 

過去1年間にあなたはスポーツをどれくらいしましたかという調査を毎年行っているのですが、昨年度実施した調査だと、成人の障がいのある方で週1回スポーツをした人の割合は24.9%でした。4分の1くらいなんですね。成人の障がいのない方の場合は59.9%で、6割くらいでした。この差は結構大きいです。

 

24.9%という割合も、亀の歩みではあるんですがちょっとずつ上がってはいます。ただ去年は新型コロナウイルスの影響で様々な大会が中止になったり、障がいのある方が外出自体を控えたりしたということもあり、前年度からなかなか上がりませんでした。また同じ調査のなかで、過去1年間でスポーツやレクリエーションを全然していないという方々が過半数を占めていて、さらにその8割の方がスポーツに関心がないという回答でした。

 

ヴェルディさんや他の皆様方がしている取り組みというのは、そういうところに風穴を開けるという意味で、非常に意義があるものだと思っています。

 

さらに、北澤さんが『まずやってみよう』というお話をされていましたが、実はスポーツ庁もいろいろな事業をやっていて、その事業の受託者の方々が昨年のコロナ禍を経ての報告会で同じことを言っていました。

 

まず私たちの事業をどうやって受けていただくかと言いますと、最初に国から大きなお題を出します。例えば『障がいのある方々とスポーツ団体の連携』というお題を出すと、北澤会長のJIFFが『やります!』と手を挙げてくださる。そこには7団体の統括と9地域連携会議が含まれているんですね。もしくは『障がい者スポーツの理解促進というテーマでうちの県もやります!』とまた手を挙げてくださる。

 

それを有識者の先生方が採択して決定します。それでJIFFにもやっていただきました。ただ去年はその採択後にコロナ禍があり、上半期にほとんど活動ができませんでした。それでも年度末になると役所に報告をしなければならない。その報告会で皆様方がおっしゃっていたのは、どうやればできるかを考えましたということでした。

 

そのどうやればできるかを考える姿勢、まずやってみようという姿勢は重要なんだなと思いました。悩むだけでもなくて、お金がないからできません、専門家がいないからできませんということでもなくて、どうやれば目の前にいる人にスポーツをしてもらえる環境を作れるかが本当に重要なんです。このことはスポーツを通した共生社会につながるし、どんなことでも同じなのだと思います。

 

先ほど申した報告会は毎年開催していて、いつもは受託者の方々に東京に来ていただいていたのですが、それはできなくなりました。そこでどうやれば受託してくださった方々が事業を報告できて、それを皆様に展開できるかという観点からものを考えて、今までと違う方向でやってみました。

 

こうして世の中が変わっていくなかで、今どうやればできるかを考えることがきっと積み重なって、2年後、3年後、あるいはもっとさきの世界において、社会を変える原動力になるんだと思います。

 

今日のここまでのお話のなかで、社会を変えていくという強い意気込みで思い切りやられている方もいらっしゃったと思いますし、目の前のひとつひとつのことをどうやればできるかというお話をされている方もいらっしゃったと思うのですが、そういったことは例えば障がいのある方々のような、もしかしたらこれまで接することがなかった人たちを幸せにするにはどうしたらいいのかということにつながる、まさに共生社会の話なのだと思います。そしてそれは日々の生活の質を上げていくことにつながると思います。今日はそんなことを感じながら皆さんのお話を伺っていました。

 

スポーツ庁でなかなかできていない部分もあるのですが、今日はメディアの皆様もおいでになると伺ったので、そんなにおもしろい話をできるわけではないのですが、何かお手伝いをできればと思って参りました。広報をどうすればいいか、またこういった素晴らしい取り組みをどうやって拡げていけばいいかということが課題だと思っているので、皆さんのお知恵をお借りできればと思います。

 

平原依文さん

助川さん、ありがとうございました。

続きまして、実際にスポーツを楽しんでもらうこと、そしてそれを継続していくことに日々取り組んでいる中村コーチに質問です。長らく障がい者スポーツの現場で活動していますが、普段感じていることや、これからどのような社会を実現していきたいかを教えてください。

 

中村一昭(東京ヴェルディ普及部/SDGsヴェルレンジャー)

まず昨年ヤンセンファーマさんと一緒に活動させていただいた『ともに未来へ Green Heart Project』についてお話をさせてください。この活動は精神障がいのある方々、そのご家族、ヤンセンファーマの皆さん、ヴェルディのスタッフなどが一緒に行ったもので、スポーツ教室、就労体験、試合観戦の三本立てになっています。ひとつめのスポーツ教室は活動全体のアイスブレイクとして位置づけていて、スポーツで心を溶かして『楽しいな』と思える雰囲気を作って、そこから就労体験、試合観戦につなげていきます。

 

やはりスタジアムにお越しいただいた直後は皆さん固い表情ですが、スポーツは人と人を近づける魔法のチカラを持っているので…、またいいこと言いました(笑)、そうやってまずはスポーツを楽しんでいただくことでハードルを下げることができます。そして『お仕事大変だから嫌だなあ』という気持ちから、スポーツと就労体験につなげることで『みんなで協力してお仕事ができたな』と感じていただくこと、そしてお給料(東京ヴェルディから就労体験参加者の皆様に交通費を支給しました)をもらって、みんなでサッカーの試合を観るという体験をしていただく、少しずつ実際の就労に近づけていく活動ができたのではないかなと思っています。

 

またJIFFインクルーシブフットボールフェスタでも東京ヴェルディは毎年お世話になっていて、在京クラブみんなで協力しあいながら障がいの有無に関係なくまぜこぜサッカーをしています。以前に北澤さんと話したことがあるのですが、これは健常者の子どもたちが障がいに対する理解を深めることによって、街を変えていく力があるイベントだと思っています。先ほど助川さんも『社会を変えていく』ということをおっしゃっていました。JIFFの皆さんの活動によって、例えばイベント会場のある東京都多摩市の子どもたちが参加して障がいについて知る、子どもたちが育つにしたがいそのエリアで障がいに対する理解が深まっていく、さらに5年後、10年後にはその子どもたちが大人になって街を障がいのある方にとって住みやすく変えていくことができると思います。

 

以前は目の前にいる子どもたちにどうやって楽しんでもらおうかを考えていたのですが、長年活動を続けていくなかで5年前、10年前に出会った子たちと今いろいろな話をしていると、イベントに参加した子どもたちの理解を深めるというところから一歩進んで、街を変えていっているんだなと感じます。なのでメディアの方々とも連携してこういった活動を発信していただいて、みんなが知って理解を深めて、街を変えていくことにつながればいいと思っています。

 

それから今年『Green Heart Room』という取り組みを始めました。鈴木順さんが川崎フロンターレ在籍時に取り組まれていたセンサリールームを見ていいなあと思って、クラブ内でこういった活動ができないか相談をしていたのですが、検討するなかで自分たちの力だけではできないと思ったので、普段スポーツ指導で訪問させていただいている特別支援学校多摩桜の丘学園さんに相談しました。

 

先生方からは、自閉症や感覚過敏の子ども向けもいいけれど、他の障がいがあってスタジアムに来られない、もしくはご家族に障がいがあってなかなか落ち着いて観戦ができない方も対象にしてはどうかというご意見をいただき、そのように方向転換して進めることにしました。そこで名称もセンサリールームではなく、Green Heart Roomとしました。4月から2試合で実施したのですが、サッカー観戦に熱中していただける環境を作れたと思います。

 

我々はこのGreen Heart Roomを毎回カスタマイズしていきます。ときには肢体不自由の方がいらっしゃったり、精神障がいの方がいらっしゃったり、どんな方にも利用していただくために、その都度部屋をカスタマイズする。大変な部分もありますけれど協力しあって、完成はないかもしれませんが、みんなでつくりあげていければと思っています。

 

利用者の方には、このGreen Heart Roomを自宅のリビングルームのように感じていただけたらうれしいです。自宅のリビングでJリーグを観られることってないですよね。そこを目指していきたいと思います。

 

平原依文さん

ありがとうございます。まるでガウディのサグラダ・ファミリアのように、完成がいつになるか分からなくても、みんなで一緒になってつくっていくものなのですね。

 

北澤さん、最後にお聞きします。北澤さんはこのSDGs²スタジアム2021をきっかけとして、今後に向けてどのようなことを期待されますか。

 

北澤豪さん(日本障がい者サッカー連盟)

我がヴェルディがこうして先頭を切って発信をしてくれることで、自分も所属していてよかったなと思います。あの時代は強さでサッカー界を引っ張っていましたが、今ヴェルディは15種目のスポーツを展開していて、そこに関わる人たちがスポーツを選べるようになっているし、何かひとつではなくて、社会に求められること、世の中に必要とされるいろいろなことに取り組んでいる本当に素晴らしいクラブになっていると思います。

 

そこには先ほどの話にもあったようにフロンターレの活動からヒントを得たり、Jリーグからの協力があったり、企業さんの力を借りたりして、ヴェルディだけではできなかったことがチームを組むことで実現して発信できている。

 

今までスポーツをできなかった人たちが、環境を整えることによってできるようになる。スタジアムに行けなかった人たちが、行けるようになる。ジェンダー平等の目線で、これまでの価値観を変えていく。そういったことができると、たくさんのサッカーファミリーが増えると思うし、それはスポーツ全体で問題解決をする力に変わっていく。そこに自分たちも関わっていける。そういう期待感を持てるトークセッションだったと思います。

 

それから木村選手は遠征先から参加してくださいましたが、障がいのある方が日常的にスポーツをできる環境づくりにも、東京オリンピック・パラリンピックを通じてもっともっと取り組んでいかないといけないですよね。高齢化の課題もありますし、日本社会として街のユニバーサルデザインを進めていかなければならないと思います。

 

平原依文さん

北澤さん、ありがとうございます。

これでふたつめのセッション『スポーツを通じて実現するノーマライゼーション社会』を終わりたいと思います。皆様、本日は長時間にわたりありがとうございました。社会にはまだまだ目に見える壁と見えない壁がたくさんあると思うのですが、皆さんが一緒になってともに進んでいくという概念があれば、スポーツ×SDGsで誰もが自分らしく輝ける、誰もがスポーツを楽しめる社会が近づいてくるのではないかということを、ふたつのトークセッションを通じて改めて思いました。ご登壇者の皆様に大きな拍手をお願いします。