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2020.07.25

緑の十八番(オハコ) 藤本寛也選手編

マッチデイプログラム企画『緑の十八番』

 

藤本寛也 選手

 

文=上岡真里江(フリーライター)

 

「味方が欲しいタイミングでパスが出せる」、「間を通すのが難しいパスを通せる」、「プレッシャーを受ける中でも最善の選択ができる」……。藤本寛也の類稀なパスセンス、創造性を称賛する言葉は挙げたらキリがない。広い視野で空いたスペースを見つけ、時に味方を使いながらコンビネーションで崩すシーンを生み、また時には自分が溜めて相手を引きつけ、決定的なパスを繰り出す。シュート精度も高く、いわゆる“決定的な仕事のできる選手”として、U−15から常に世代別代表に選ばれ、世界を相手に戦ってきた。

当然、パスやトラップ、シュートなどのボールを扱う技術は、本人も徹底的にこだわって磨いてきた。が、そこにとどまらないのが藤本である。「出したいところに正確にパスを出せることもそうですし、他の人が見えていないところが見えてからこそ出せるパスもある。自分的には、それはすべて“頭脳”があってこそだと思っています」。磨いたテクニックを、より一層輝かせているのは、サッカーIQの高さだと自ら分析する。

 

だからといって、サッカー頭脳を他の誰かと比べたことなどない。比べることでないとも思っている。ただ、昔から、考えてサッカーをすることが好きだったという自負はある。

 

初めて「その面白さをなんとなく感じられた」のが、中学3年生の時。U−15日本代表で、自身のサッカー人生に大きな影響を及ぼした吉武博文監督(現ヘッドコーチ)と出会い、指導を受けてからだった。

 

「それまではサッカーをやっていても、全然上手くなっている実感がなくて、正直、楽しくなかった。でも、吉武さんの指導はすごく僕に合っていて、教わっているうちに『あ、これだ』と自分の中にアンテナが立ちました。当時は、代表に残るために無我夢中でやっていたので、特に『頭を使っている』という意識はなかったのですが、練習で言われたことが、次の試合で本当に起こったり、プレー自体も、『ここをこういうふうにやれば成功するよ』と言われて実践すると、それまでとは別の結果に変わったり。すべてにおいて、上手くいくことが増えました」

 

そこから、考え方、プレー選択の仕方などを意識するようになり、水を得た魚のように生き生きとし、成長の幅を広げていった。

 

そしてプロになって3年目の今、同じく吉武氏を『恩師』と仰ぐ永井秀樹監督と、ヘッドコーチに就任した当人の下で、今度はただ「がむしゃらに」ではなく、本当の意味で“頭を使って”プレーできていると実感している。

 

「味方の位置と敵の位置を確認し、空いているスペースを把握する。その上で、スペースに走ってボールを受けるのか、そのスペースにパスを通すのか、自分のポジショニングについても考える。そういうことをいつも考えています。『90分間集中力を切らさない』ということも、頭を使わなければできないですし」

しかし、サッカーはチームスポーツだ。いくら考え、想像力を働かせても、プレーに関わる相手、チームメイトたちとの共通理解がなければ、それを“最善の選択”にすることはできない。これまでは、その部分にどうしても難しさを感じていた。だが、明確にチームの『型』を示し、徹底的に浸透させ、追求する永井監督の存在は、21歳のレフティーにとって最高のサポートになっている。実際、指揮官も「このサッカーを一番引っ張っていけるプレーヤーだと思いますし、このサッカーを頭の中で理解できている選手」と全幅の信頼を寄せている。チームの熟成度が高まれば高まるほど、藤本の頭脳的センスはより一層発揮されていくに違いない。

 

サッカーIQの要素には、“判断力”も含まれるはずだ。藤本は、プレッシャーを受けながらのプレーなど、特に能力差が表れるシチュエーションでのプレー選択の正確さを、非常に高く評価されている。「プレー中は、この判断が正しいのか、正しくないのかなんて自分では分からない」と話すが、「逃げのパスは好きじゃない。小さい頃から、ボールを前に運ぶこと、積極的にチャレンジすることを常にやっていたので、それをプロでもできるように」と、自ら貫いてきたポリシーを大事にしている。それが、自然と「ゴールへ向かう意識の強い選手」とのイメージにもつながっているのだろう。

 

「止める、蹴る」の基本技術とクレバーさ、そしてメンタルの強さ。三拍子揃った東京ヴェルディが誇る希望の星が見据えるのは、もちろん“世界”だ。「これからもゴールに結びつくプレー、相手にとって嫌なプレーを心がけたい。そのためにも徹底的に“質”にこだわって、素晴らしい選手になれればと思います」。昨年8月に負った右膝前十字靭帯損傷・右膝半月板損傷のケガは完全に癒えた。「新しいヴェルディを作っていく象徴」と、永井監督から託されたキャプテンマークを誇りに、頭脳で、プレーでチームを牽引していく。