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2020.10.11

緑の十八番 新井瑞希選手編

マッチデイプログラム企画『緑の十八番』

 

新井瑞希 選手

 

文=上岡真里江(フリーライター)

 

2019年8月31日、東京ヴェルディ加入後、初出場、初先発を果たした敵地でのV・ファーレン長崎戦の前半6分だった。左サイドのタッチライン際で山本理仁からのロングパスを受けると、ドリブルで迷わず中央へ切り込む。すぐに相手DF2人が寄ってきたが、その間隙を縫ってペナルティエリアの外から右足を一閃、ボールはGKの手元でバウンドし、ゴール右隅へ吸い込まれた。

 

それは「これが新井瑞希です!」と言わんばかりの“名刺弾”。自ら「得意の形」と胸を張る一撃で、自身のJ2初ゴールを記録した。

一例とはいえ、そのゴールには、新井の『こだわり』が凝縮されていた。

 

「左サイドでボールを持って、中に入って行ってシュート」。この形が、自ら「らしい」と言えるほどの武器になったのは、プロに入ってからだ。

 

1年目にSVホルン(オーストリア)でプレーしたことも、ひとつの大きなきっかけになったようだ。

 

「外国の選手は、シュートがすごく上手かった。それぞれが自分の形を持っていたので、僕もシュートに行く自分の形、得意の形を作りたいなと思って」

 

スピードとドリブルには自信があったが、決め手に欠けていることを痛感。当時、左サイドで起用されることが多かったこともあり、「左でボールを受けて、中に運んでゴール右隅に打つ」という一連の形を、徹底的に繰り返し練習し、身に染み込ませていった。

 

中でも特に重視したのが、「シュートを決めること」だった。当時、SVホルンには日本代表GK権田修一(現ポルティモネンセ/ポルトガル)が所属しており、全体練習後にシュート練習に付き合ってもらえるという好環境にも恵まれた。ひたすら量を蹴り、感覚を養いながらスキルを磨いていくと、次第にカットインからのシュートに自信が持てるようになった。今では、「DFと1対1になった時のボールの持ち方、角度や相手との間合いなどで、『これは入る』と分かる瞬間がある」と言うほどまでに熟達した。

 

そんな“決め手”ができたことで、新たな道が広がっていった。「カットインしてからのシュートって、高校時代やプロになったばかりの頃は打っても入らなかったので、その形に持っていくこと自体が少なかったんです。でも、練習して、その形ができてからは、『少し遠目の位置からでもシュートを狙える』という選択肢ができて、他のプレーもやりやすくなりました」。

 

相手にミドルシュートを警戒させられるようになったことで、ドリブルでより高い位置まで運べるようになるなど、明らかにプレーの幅が広がった。

 

2017年9月に日本に戻ってからも、身につけた武器の威力は存分に発揮された。SC相模原ではシーズン途中の加入だったにもかかわらず、瞬く間に左サイドのレギュラーに定着し、攻撃の核として活躍。翌年に加入したカターレ富山でも、得意の形で躍動し、チームに貢献した。そして2019年8月、以前からそのポテンシャルに目をつけていたという永井秀樹監督に請われて緑のユニフォームに袖を通すことになった。まだ23歳。J3、J2と着実にカテゴリーを上げてきた新井に対し、指揮官は「今後、まだまだ伸びしろがある」と期待を寄せている。

 

今シーズンは第24節を終えて5試合の出場、出場時間はわずか36分と、持ち味を発揮するための時間をつかみ取れていないが、決して士気を落とすことはない。

 

「永井さんのサッカーは僕が他で習ってきていないものなので、それを理解するのに時間はかかると思います。でも、練習ごとに改善されている実感はありますし、自分の中で考えてサッカーをやることがすごく多くなったなと思っていて、すごく楽しいです。日々新しいことが起きるし、発見がある。今は試合には出られていませんが、無駄な時間ではなく、むしろすごく意味のある時間だと思っています」

 

自分の武器に絶対の自信を持つ一方で、それが相手に読まれ始めていることも自覚している。コーチングスタッフからも指摘があり、今はまた新たな必殺技を身につけようと特訓中だ。「ヴェルディに来てから、毎日シュート練習をしていて、巻くシュートや直線的な速いシュートなど、どんどん違う球質を蹴られるようになっています。シュートまでの形や、シュートの種類、一つ武器ができたら、それを使ってまた違う武器を作っていきたい」と、向上心も旺盛だ。

 

中学時代まで育った柏レイソルのアカデミーでは、「つなぐサッカーやテクニックの部分」を学び、浦和レッズユースに在籍した高校時代は、大槻毅監督(現浦和レッズ監督)の下で「フィジカルや戦う姿勢」を学んだ。SVホルンでは、当時クラブの経営に参画し、自らはACミランでプレーしていた本田圭佑と一緒にトレーニングする機会があり、様々なアドバイスを受けた。また、その立ち居振る舞いから、「世界のトップでやっている選手は、堂々としていてオーラがすごい」と刺激を受けた。海外生活によって、語学力と社交性、コミュニケーション力の重要性も痛感した。

 

「いろいろなチームで鍛えてもらって、多くのことを吸収できたことが、今の自分を作っているかなと思っているんです」

 

そして今、考えながらサッカーをする難しさ、楽しさを実感する中で、新たな感情が生まれている。

 

「ヴェルディは、見ていて楽しいサッカーをやっていると思う。その中で僕も、サポーターがワクワクするようなプレーがしたい」

 

そのためには、「ゴールへの意欲、ゴールに直結するプレーをもっと突き詰めていきたい。シュートやドリブルだけでなく、パスや戦術理解、すべての面で質を高めて、相手にとって『怖い』選手になりたい」。

 

甘いマスクですでに女性人気は高いが、ピッチ上で見せる、華麗で力強いカットインからのシュートには、男性サポーターもハートを射抜かれるはずだ。本格開花が待ち遠しい。