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2023.12.01 トップ

Match Preview & Column #23

Special Column
『育まれ、伝承されてきた「ヴェルディらしさ」で16年分の歓喜を』


東京ヴェルディというクラブには、脈々と受け継がれてきたDNAがある。それは、ぼんやりと「ヴェルディらしさ」という言い方で表現されることが多い。

2011年から取材者としてこのクラブに関わる機会を得て、多くの選手、スタッフ、それにOBの方に話を伺うことができた。中には読売クラブ創設時から在籍する方もいたし、隆盛を誇った90年代にプレーされていた方もいた。そしてもちろん、いまこのクラブでプレーする選手たちもそうだ。

抽象的な「ヴェルディらしさ」という言葉を紐解くと、「目の前の相手に負けたくない」、「絶対にうまくなってやる」というような、心の中で緑色に燃えるプライドにあると思っている。加えるならば、「味方に対する愛情」、「チームへの忠誠心」もそうだ。

その歴史は紡がれ、長く在籍する選手たちから後輩に伝達された。ヴェルディのクラブハウスで育まれたものは、新加入選手にも伝播していった。彼ら選手が表現するプレーは、スタジアムに集うファン・サポーターのハートにも伝わり、クラブのアイデンティティーになっている。



今季、スタジアムイベントで味の素スタジアムに来ていた北澤豪さんに取材をする機会があった。北澤さんは、森田晃樹や谷口栄斗といったアカデミー出身者がチームを引っ張っていることに頬を緩ませつつ、「あのボンちゃんがね、キャプテンをしているのがうれしいよね」と言って、こんなエピソードを教えてくれた。

「彼らが小学生のころ、たまに家へ遊びにきていたんだ。そのとき、体は小さいのに自分に対して何回もドリブルで仕掛けて、それにボールを奪いにくる子がいてね。それがボンちゃんだったんだよ」

幼き日の、森田晃樹少年のことである。

絶対にボールを奪われない、奪われたらなんとしても奪い返す。相手を上回り、そして勝つ──。

北澤さんに対して挑んでいった小学生の森田の姿も、今季、森田主将が見せ続けたのも「ヴェルディらしさ」ではなかったか。ひいては城福浩監督が求めるものも、これらの部分に通ずると感じている。

彼らが先頭になり築き上げてきた今季のヴェルディの、そして苦渋の時間だった15年の総決算のときが近づいている。

J1昇格プレーオフ決勝、舞台は国立競技場。

ヴェルディが輝かしい歴史を刻んでカップやシャーレを獲得してきた場所だが、“新しいヴェルディ”が歴史を創る上で、それが改修された“新国立”を舞台とすることも意義深く感じる。

脈々と続いてきた緑のアイデンティティーが新たな形となって、国立で歓喜をつかむこと。彼らは、そしていまのファン・サポーターにはそれを手繰り寄せる力と自信がある。

さあ、「ヴェルディらしさ」を見せつけよう。

(文 田中直希・エルゴラッソ東京V担当/写真 東京ヴェルディオフィシャル)

Match Preview

『あと1つ!J1昇格への最後の関門を全員で突破しよう』

「あと1つ!」

 

ジェフユナイテッド千葉に勝利した後、東京ヴェルディを想う誰もが胸に抱いたに違いない。

 

試合後、選手たちから聞かれた声も、歓喜よりも「ホッとした」というリーグ3位チームとして進むべき決勝の舞台へ駒を進められたプライドと、「次に勝たなければ意味がない」との決戦に挑む並々ならぬ決意ばかりだった。

 

準決勝に続き、この決勝でも『引き分けでも勝利』というアドバンテージがある。

 

だが、千葉戦同様、「引き分けでもOK」などと考えて試合に臨むものは誰もいない。

 

目指すのはただ一つ。「しっかりと勝ってJ1へ!」だ。

 

プレーオフ決勝の相手は清水エスパルスとなった。今季、東京ヴェルディが唯一、前半戦、後半戦の両方とも黒星を喫した難敵である。清水は乾貴士、権田修一といった元日本代表選手含め、「個々のレベルがJ2レベルではない」というのが、城福監督はじめ選手たち全員がまず最初に口にする印象だ。

 

だからといってネガティブな発言は皆無なのがなんとも頼もしい。

 

モンテディオ山形との準決勝でも、スコアレスドローながら乾、チアゴ サンタナが隙あらばどの位置からでも積極的にシュートを狙い決定機を作るなど、今季リーグトップタイの得点力をうかがわせていた。

 

「まずはシュートを打たせないということを意識しつつ、でも、僕らはリーグ最少失点という自信もあります。ここまでシーズン通してやってきた全員で体を張って、まずは先に失点しないという泥臭い守備ができれば大丈夫だと信じています」とはDF深澤大輝。

 

前回の対戦で対峙した中山克広について、「すごく速いと感じました。今回も、多分背後を狙ってくると思いますが、彼は動き出しのところや止まってからの加速などであったり、スピードを生かすための技術がある選手」と、警戒すべき選手の一人に名前を挙げた。

 

一方で、失点数も東京Vに次いでリーグ2位の少なさと、攻撃する立場としても清水の牙城は非常に高い。そこで期待したいのが染野唯月だ。

 

「自分はここぞという大一番の試合で点を決めてきた。そこには自信を持っていいと思っています」と、本人も自覚するほどの大舞台での強さに加え、並々ならぬチームへの想いもある。

 

「去年の今頃もヴェルディでプレーしていて、最後6連勝したけれどプレーオフに届かなかった。その悔しさを自分は知っている身なので、J1に上がるという気持ちは本当に強いです。自分が点を取って勝ちたいですし、たとえそれができなくても、チームのためにどれだけ犠牲になって戦えるかが大事。どんな形でもチームのためにいい仕事ができればと思っています。」

 

個人としても、チームとしても、J1へ挑む準備は整った。最後の試練として、清水エスパルスという強敵が相手というのは、むしろ望むところだ。

 

「清水に勝てなけば、J1では戦えない。個人としてもチームとしても、その最高の試金石になると思います」と林尚輝。

 

決して順風満帆なシーズンではなかった。主力の負傷長期離脱、移籍それでも全員で乗り越え、ここまで辿り着いた。シーズン2敗している清水に勝つことが、唯一の残された関門だと言える。



ファン・サポーターも掲げるJ1昇格への想いを胸に、必ずや16年ぶりの悲願を掴み取ってみせる!

(文 上岡真里江・スポーツライター/写真 近藤篤)

Player's Column

『森田晃樹というフットボーラーとヴェルディがつかむもの』

そのゴールは、『言葉ではなく、プレーで引っ張る』という森田晃樹のキャプテン像を象徴していた。

 

20231126日、ジェフユナイテッド千葉とのプレーオフ準決勝。中原輝のゴールで先制し、1-0で迎えた前半44分だった。左サイドからの齋藤功佑のクロスにペナルティエリア内中央で頭で合わせ2-0。結果として、このゴールが決勝点となった。

 

リーグ戦を3位で終えている東京ヴェルディは、引き分けでも勝ち抜けというアドバンテージを持っているが、チームは誰一人として「引き分けでもいい」とは思ってない。その中で、前半のうちにリードを2点に広げられたことで、後半に1点を返されながらも常に精神的に優位に立ちながら試合を進められたことは間違いない。その意味でも、値千金のゴールだった。

 

キャプテンに就任し、「J1に上げた男になりたい」と自らにプレッシャーをかけて闘ってきた生え抜き23歳が突き刺した一撃に、自然と涙が溢れたファン・サポーターは少なくないだろう。森田自身も、その想いと価値は十分受け止めている。

 

「リーグ戦でなかなか得点とかアシストとかができなかったので、ああいう大事な試合で決められたことは、ファン・サポーターにとっては大きな意味があると思いますし、僕にとってもすごく自信になりました」

 

ただ、それで満足する男ではない。本当の意味での大舞台は決勝・清水エスパルス戦だ。

 

「次で決めたら本物じゃないですかね」

 

 大一番で結果を残してこそプロ中のプロ。森田晃樹という選手の持つ力量と運をたぐり寄せる力がどれほどのものか。自分自身で確かめるためにも、ゴール、アシストという明確な結果で証明することを誓う。

 

 一方で、「J1に上げた男」との言葉を使ってはいるが、サッカーがチームスポーツである以上、それが決して自分だけの力で成し遂げられるわけがないことも、森田は十分理解している。だからこそ、仲間たちに感謝してやまない。 

 

「今振り返ってみても、本当に助けられたことばっかりだなと思います。特に、僕の前にキャプテンとしてチームを引っ張ってきた平智広選手だったり、役職とか関係なく常にチームのことを考えて動いてくれる梶川諒太選手だったり、長くヴェルディにいる選手には本当に助けてもらったと思っています。まぁ、(副キャプテンの)谷口栄斗は(怪我で長期離脱があったので)あまりプレーできなかったけど〜(笑)。それでも、ホーム最終戦のスピーチを代わりにやってくれたので、助けてもらいました(笑)」

 

と、森田らしく軽口も挟みつつ、チームメイトの尽力を讃えた。

 

さらに、アカデミー出身選手として掻き立てられるのは、かつて共に戦ってきた多くの先輩・後輩OBたちからのエールの言葉だ。実際、千葉戦にも多数の戦友たちが味の素スタジアムに足を運び、決勝進出を見届けてくれた。

 

「スタジアムに来てくださったOBの方々もいますし、LINEなどのSNSで『頑張ってね』とメッセージもいただきました。井上潮音くんとか、新井瑞希くんもだし、井出遥也くんは、神戸が優勝した時に僕から『おめでとうございます!』とメッセージを送ったら、『晃樹も頑張って!』と返ってきたり。本当にみんな、なんだかんだいってヴェルディのことを気にしていて、ヴェルディのことが好きな人が多い。だからこそ、期待に応えたい気持ちはあります」

 

おそらく、122日の試合当日も、国立競技場にはたくさんの、たくさんの、ヴェルディの歴史を築き、受け継ぎ、伝えてきた先駆者、OBたちが16年ぶりに訪れる歴史が変わる瞬間を見届けに足を運ぶに違いない。そうした一人一人の想いを味方につけ、プレッシャーではなくエネルギーに変え、存分に躍動したい。

 

もうひとつ、森田はじめ選手たちの心を燃えたぎらせてくれるのが、ホーム最終戦の栃木SC戦、プレーオフ千葉戦でファン・サポーターが描いてくれた緑×白のコレオグラフィーである。

 

「素晴らしいですね。あれだけのものは今まで見たことがなかったです。あれだけのものを完成させるには時間もかかるだろうし、労力もかかるだろうと思います。チームとして一体感を出すためにあそこまでやってくれることに、本当に感謝しています。きっと、次に向けてもいろいろと考えてくださっていると思います。本当に楽しみ。選手も全員、気分が上がるので、心から楽しみにしています!」

 

 城福浩監督は、今年の年明けに宣言した。「僕は、U-17代表監督の時から『ムービングフットボール』と言ってきました。今年はあえてそれを選手たちの前で明確に出しました。ムービングフットボールのムーブは、もちろん走る、動くという意味と、もう一つ『感動させる』という意味があるので、これまでは『お客さんを感動させよう』という意味も含めて使ってきました。

 

でも、今回は違う。

 

『人を感動させることに加えて、自分たちが感激するシチュエーションを作ろう。感激を追求するサッカーをしよう』と。つまり、相手チームがどう思おうが、他人がどう思おうが、困ったときには自分たちがそれを追求できているかというところを常に振り返りながらやっていく。1シーズン通して、ブレないサッカーをしたい」と。

 

そこに対しても、キャプテンとして、十分な手応えを感じている。

 

「個人的にですが、そういうサッカーができていると思っています」

 

さらに、感慨深げに続けた。

 

「本当になんか、勝負強くなったなあと思う試合がいっぱいあって。アディショナルタイムで勝利を決めた試合もありましたし、ホーム最終戦の輝くんのゴールで劇的に勝った試合もそうですしね。本当に、自分たちも感動するような試合も多かったなあとあらためて思います。そういう意味でも、監督の目指すサッカーは体現できていると思います」

 

『勝敗は細部に宿る』と言われるが、城福ヴェルディは、まさにその細部にこだわった練習を1月から続けてきた。そうして作り上げてきたチームだからこそ、森田キャプテンには、並々ならぬ自信がある。

 

「ニアゾーンに入る。靴一足分寄せること。ちょっとでも相手より走り勝つ。リカバリーパワーなど、僕たちには徹底し続けてきた自信があります。清水エスパルスには今季対戦した2試合とも勝てていなくて、間違いなく高い壁ですよね。正直、もともと持っているポテンシャルがJ2のチームか?と言いたいぐらいの選手が揃っていて、対戦するたびに衝撃でした。

 

さらに守備の強度もすごく高くて、『これがJ1でやってきたチームなんだな』と素直に思いました。だからこそ、そこを超えてはじめてJ1でやっていけるんだと思う。引き分けではなく、しっかりと勝ってエスパルスをという強敵を超えたいと思います」

 

もはやJ1昇格は理想でも夢でもない。自分たちで手繰り寄せてきた当然の権利なのだ。

 

J1に上げた男になりたい」

 

森田だけではない。この15年間、主将という役職、アカデミー出身であるか否かにかかわらず、どれだけ多くのヴェルディを想う選手たちが同じような想いを抱き、奮闘してきたか。それでも叶えられてこなかった。そうした先人たちの想いを背負いすぎないのが森田。ただ、その一方で、しっかりと受け止められるのも、また森田の素晴らしい人間性なのである。

 

そんな若きキャプテンの下、監督・コーチングスタッフ、チームメイト、ファン・サポーター、すべてが和を成し、挑むJ1昇格。

 

「絶対にJ1に行きます」

 

 背番号『7』がけん引し成し遂げる大業を、この目で、心で、しっかりと見届けたい。

(文 上岡真里江・スポーツライター/写真 近藤篤)